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#16-限りなき戦い(The Battle Of Evermore)

 さて、そんなこんなでアメリカ人親子と一つ屋根の下、奇妙な共同生活に入った。

 これが血のつながっていない女子大生の妹とのひょんな共同生活なら、洗濯物の中に混ざっていたセクシーな下着を見つけて赤面したり風呂に入ろうと思ったら向こうがすでに入っていて、金切り声をあげられながらシャンプーや石鹸を手当たりしだい投げられてその場を退散したりと、それはそれは毎日が上へ下への大騒ぎな日常が味わえるが、日本人にあからさまな差別意識を持つ米軍と心を開かない思春期の小僧相手だと何ら面白みもない。

 前にここに住んでいたウーピー(仮名・前に同じ家に住んでたアメリカ人)たちみたくスペイン語でコミュニケーションが取ってくれればこっちもメリットがあるが、何せ向こうは全て英語で押し通そうとするものだから、はっきり言ってこっちもどうしようもない。

  しかも始末の悪いことに、当初こいつらはぼくが英語もスペイン語もペラペラのトライリンガルだと勝手に思い込んでいた節があった。
 どうも初コンタクトの時にぼくが話したつたない英語がかなりのまぐれ当たりだったらしいことと、ぼくが講師なり家の人なりネイティブとの交流する様が、彼らから見てそれなりにコミュニケーションが取れていると判断したのだろう。事あるごとに「今なんて言ったんだ?」とぼくを向いては英語の翻訳を要求するようになった。
 はっきり言って英語は話せないし、入国時よりはマシにはなったがスペイン語もまだおぼつかない。当然ながら言葉に詰まったり「わからない」と伝える頻度は増える。そんなぼくのスキルにだんだんと彼らは見切りをつけ、「実は英語もスペイン語もしゃべれないJAP」と勝手に烙印を押し、話しかけられる頻度だんだんと減っていった。

 とはいえ、とりあえず同じ家ということもあり学校でも彼らの様子は気にかけていたのだが、どうやらこの親子の企画は完全に企画倒れに終わっているように思えた。

 休暇を利用して子供に異文化を体験させる父主導の企画だったのだろうが、肝心の息子が異文化に全く興味を持とうとせず、 

 「ダディが変なことを言わなかったら、今頃家でママお手製のチェリーパイをドクターペッパーで流し込みながら『モータル・コンバット』をプレイしていたはずなのに…」 

 と言わんばかりの不機嫌な表情があからさまに出ているし、父親は父親で、

 「学校のシステム上スペイン語も勉強しないといけないかもしれないが、あくまでも自分は息子の保護者として一緒に来ているだけ」

 というスタンスを曲げる気配はない。

 世間では、父親が子供に自然を体験させるべく親子参加のキャンプ旅行を勝手に申し込んでみたものの、肝心の子供は全く乗り気ではなく最終日まで駄々をこねていたという”新米パパのあるあるネタ”を耳にするが、この件に関しては、企画倒れにしては時間とお金がハイリスク過ぎる。しかもこういうのに限って5週間くらい滞在するらしいのだから、実に始末に終えない。

 そしてそんなある日の夕食後、事件は起こった。 
 ぼくはその時、リビングでメキシコ代表のサッカー中継を見ていた。前回は大きな大会の一次リーグだったか、今回は決勝トーナメントでの試合ということもあり、かなり期待していた試合だ。
 
 緊張感の高い白熱した試合展開を堪能していたら夕食を終えた息子がやってきて、ぼくになんの断りもなくいきなりリモコンを手にとってザッピングし始めるという暴挙を働いたのだ
 そしてスポーツ専門チャンネルで放送していたメジャーリーグの中継で手を止め、ものすごく自然な態度で野球を堪能し始めた。しかもユニフォームの胸ロゴを見た限りでは、サンフランシスコ・ジャイアンツの試合のようだ。

 「おい小僧、何をしやがる! 俺はサッカーを見てるんだ!」
 「サッカーになんか興味はない! 俺は野球を見たいんだ!」

 まさかメキシコまで来てアメリカ人とチャンネル争いという一大抗争に巻き込まれるとは、一体誰が予想しただろうか。


 しかし、このままでは埒があかないので、平和的解決をのぞむべくとりあえずここは双方の意見を照らし合わせてみよう。


 まずぼくの意見。

 この試合はどうしても見たい。当時は今ほど多チャンネル時代ではない上にyoutubeのような動画共有サイトの影すらなかった時代だったから、このような大きなタイトルがかかった強国同士の真剣勝負を日本で見る機会は殆どなく、せいぜい4年に1度のワールドカップしかなかったので、せっかくだから見ておきたい。
 そして、日本の野球ですら大して興味がないのだから、海の向こうの野球なんてもっと興味がない。優勝がかかった終盤戦とかプレーオフならまだ考える余地はあるが、所詮このゲームは年間百何十試合もある公式戦のうちのひとつでしかないから大した試合じゃないだろう。


 そして小僧の意見。  

 そもそもサッカーなんて退屈で面白くない。しかし野球はアメリカ人の誇りであり、サンフランシスコ・ジャイアンツは我らサンフランシスコ人の血だ。そんな彼らの試合がテレビで見れるのをわかってて見ないなんて、そんな馬鹿な話はない。
 そして、日本代表の試合だったら100歩ゆずってやらなくもないが、わざわざ外国同士の試合を見る必要がどこにあるっていうんだ?


 うーん、やはり意見は何一つ合致していない。正に水と油、ミルクとオレンジ、イスラエルとパレスチナ、アクセル・ローズとスラッシュの関係である。

 しかし、ここで「じゃあ、勝手にしろ」と部屋に戻るのも大人気ないし、小僧に全ての権利を無償譲渡するのも筋が通っていない。だからといってリモコンを奪い合いながら髪をつかみ合ったり鼻の穴を指で引っ張り合うのはさすがに不適切だろう。ここは穏便に手打ちをすべく、何かしらの対策が必要だ。

 そこで話し合った結果、ジャイアンツの攻撃の時は小僧に視聴の権利を、そしてそれ以外の時間はぼくに視聴の権利を持つという折衷案で合意した。

 しかし、いくら白熱した攻防が展開される試合でも、こんな状況で見ててもちっとも面白くない
 ただでさえすぐ横に何らサッカーに興味の無い人間がいるだけでも興ざめなのに、サッカーは試合が途切れづらいスポーツなので、いくら見せ場のシーンが目の前で起きても定期的にチャンネルを変えて野球の動向をチェックしなければならないというわずらわしさも付きまとう。

 一方野球は明確な攻守交替はあるが、あっさりと三者三振することもあれば1イニングで打順が一回りすることもあるので、大事なシーンを見逃す可能性もある。
 しかも約束でありながらチャンネルをサッカーに変えた瞬間に小僧はあからさまに不機嫌な顔をし、時間配分を間違えてナ・リーグの攻撃が既にツーアウトになっていようものなら、「約束が違う」今にも訴訟の準備に入りそうな勢いだ。この案は公平に見えても、分が悪いのは明らかにぼくのほうだった。

 親父は「あまりわがままを言うんじゃないぞ」という大して効果が期待できない注意はするが、その表情は「子供相手に大人気ないJAPめ!」と言いたげだった。


 ああ、大人気なくてけっこうだ、コノヤロー!
 世論に何の影響力も持っていないこいつらにどう思われようが、体制には何ら影響は無いし。

 そういえば、今は亡きジャイアント馬場はかつて、日本のプロレス界を制覇すべく暗躍していた若かりし頃のビンス・マクマホン(現WWE社長兼CEO)に対して、
 「マディソン・スクエア・ガーデンで世界王座に挑戦したときにほんの子供だったこんな小僧に翻弄されてたまるか」 
 と一喝したそうだが、その時のぼくはまさにそんな感じだ。尤も、ぼくの場合は マディソン・スクエア・ガーデンも世界王座も未経験だが

 小僧が飛びっきりの癇癪を起こすか、親父が児童買春とかで逮捕されて強制送還されない限りは、当面は奇妙な共同生活は続くことになる。




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tag : メキシコ留学体験記1 アメリカ人 チャンネル争い サンフランシスコ・ジャイアンツ ビンス・マクマホン ジャイアント馬場

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Author:800ランプ
ルチャリブレがきっかけでメキシコに興味を持つ。
20世紀末、突然そのことを思い出しメキシコへ。民間の語学学校で言葉を学びつつ、運の良さも手伝って浮世を忘れるほどの生活を満喫。
以降も帰国してはお金を貯めては渡墨し、また帰国してお金を貯めては渡墨ということを繰り返していたら、社会のレールから脱落したので日本に落ち着く。
しかし先日、わけあって現実逃避もかねてまた渡墨。今回の日記はそのときのもの。

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